鷺沢萠「帰れぬ人々」

先週、鷺沢萠「帰れぬ人々」(文春文庫)を読了。

4編収録。

「川べりの道」
著者の処女作、文学界新人賞受賞作。
外に女性を作って出て行った父から月1回、生活費を受け取るために、父のところへ歩いていく主人公。
幸せに生きることを心から望む瞬間がありながら、どこかあきらめているような主人公。
そして、その生活の微妙なバランスが崩れる一瞬。

なんども書いているけど、これが18歳の作品か!


「かもめ家ものがたり」
小さな店を切り盛りする若い男。そこに転がり込む若い女
この女性が、よくわからないのに、なにか魅力的に描かれる。
最後にその女性のなぞが明かされるのだが、そこで取る主人公の行動が、またいい。

「朽ちる街」
塾の講師をアルバイトでやる主人公。
街の雰囲気にどこか違和感を感じている。
教え子の、それぞれの事情が描かれる。

大きなことが起こらないが、街の行く末をただ見つめている主人公。


「帰れぬ人々」
主人公の勤める会社に、アルバイトではいる女性。
その主人公との因縁。でもそれは主人公しか気づかない。
一方で、女性の方は、その因縁となった事柄に、どこか不安を抱いていて、その不安が実際のこととなってしまう経験を語る。



どの物語も、何かを失った、あるいは失っていく、その感覚がベースになっている。
それに対し、どこか諦観しているような主人公たち。
喪失感に対する感情、これは「私の話」を読むと、著者の体験が基になっているのだろうと思われる。著者にとっては、それほど強い思いだったのだろう。

どの作品も、、小説らしい小説だと思う。、「過ぐる川、烟る橋」を読んだときにも書いたけれど、今回も、ほんとに言い訳のない小説だと感じた。
http://blogs.yahoo.co.jp/ps_cha_si/13544796.html
それが、著者の小説家としての能力の高さだと思う。