鷺沢萠「葉桜の日」

鷺沢萠葉桜の日」を読了。
小説らしい小説だと思った。
そして「泣かせない」ところがすばらしいと思った。
文庫で読んだけど、2作品入っていて、どちらともそう思う。
山田太一さんの解説が書いてくれているように、
この作品を21,22あたりの年齢で書いていたようで、
ありきたりな言い方だが、天才としか言いようがない。

年齢では僕のひとつ下なのだけど、
名前を知ったのは、
なぜか彼女のデビューから全然あとだったと思う。
なんとなく名前は知っていたけど読んだことはなくて、
最近4作品ほど読んだ。
先日書いたように「過ぐる川、烟る橋」は本当に傑作だと思う。

山田太一さんが解説に書いているけど、
いわゆる「Don't trust over thirty」
なんて言葉を、僕自身はなんとなく真に受けたりして、
今になって、そうした言葉を吐いていた世代が、
30どころか、ゆうに50とかになっている。
鷺沢さんがそうした世代に対する反抗とは
まったく別の次元のところで物語を書いていたというのは、
自分としては気恥ずかしくなる思いである。

2作品とも、自分は何者かということを追っている物語だが、
結局のところ結論めいたものはなく、
むしろそのまま生きていくという決意だけが
さりげなく宣言されているような作品であると思う。
しかしなにか足元が危うい感がするのは、僕だけだろうか。
そしてそれは、僕ら世代の多くが持つ不安定感と言ったら言い過ぎだろうか?
「あらかじめ失われた世代」という言い方があったが、
その言葉よりはるか前に、その感覚を小説に書き落とした
ほんとうに天才だと思う。